職ありオタク

がんば

『燃ゆる女の肖像』感想

ネタバレ上等。上映中の作品の感想書くの初めてかも。

 

 まあ、面白いんは面白いけど、こういう普通のラブ・ストーリーのどこを映画にしようかっていうのを考えたんだろうな、と思うんだけど、そもそも普通のラブ・ストーリーをそれほど面白がれねえなあ……って思った。いや、面白いは面白いけど、腹八分目でおさまった感じというか……。

ラブ・ストーリーの部分は、マリアンヌがエロイーズの自画像を描くために島に訪れて、頑張ってエロイーズの顔面を見るぜ!ってなってるうちに惚れてもうた……エロイーズもなんか惚れてもうた……とはいえ自画像の完成は二人の別れを意味するのでバイバイ、という、まあベタなやつ。

とはいえ、ラブ・ストーリーじゃない部分も強調して描かれている。

ホモソーシャルな空間が徹底して描かれるが、前提となる世界(昔のヨーロッパ)は男性主権で女性に自由はない、その「前提」は画の中に映されることはない。閉鎖的な島の中で、数日だけの「楽園」が築かれる。その「楽園」の始まりと終わりを描く……というのがラブ・ストーリーじゃない部分の個人的な理解。

 

同性愛者の恋愛描写が、いわゆるLGBTプライドや「社会性」をまとって描かれていない、それは良い。たぶんしばらくしたらそういう描かれ方が主流になると思うし、個人的にはそれが正しい形だと思う。そういう描き方がもっともプライドを尊重する描き方になると思う。

その一方で、出会いと別れ、一瞬で燃え上がる愛、みたいなのはそんなに面白いか? と思う。恋愛(にウキウキしたりめそめそしたりするの)は映画の味付けにはなりえるけど、メインディッシュにはならない(その時代は終わった)んじゃないか? とも思っているので、その点が腹八分目で済んでしまった部分か。

でもまあこれは明らかに自分がそういう趣向を持たない、というだけで、相性の問題な気がする。

 

あと、マリアンヌやエロイーズが恋愛感情をもって相手に接するシーンとかマリアンヌの性的指向は、過不足なく描かれていてくどくなくてよかった。ジャブ打ってジャブ打って細かいジャブきかせてとどめにドストレート!(そしてエロイーズの服が炎上!)ってところがわりあい好きで、そこなんかはひとに勧めたいくらい良かった。

あとは絵描きが絵をかく=記憶・記録に残す役割を担うシーンが、それまでと比べてくどい描かれ方をしていて興ざめしてしまう。エロイーズが堕胎するソフィーの姿を「描くのよ」とマリアンヌに提言するところなんかは、もっとうまく出来なかったのか? と思ってしまう。あと、それってソフィーに言わせないと仕方がなくないか? 描かれる側がそれを求めるor求められなくても描く、という過程がないと成立しなくないか? 傍観者が傍観者に「記録をして」って言ってもお前立場同じじゃねーか懐痛まないんだからそりゃ気軽に言えるわな。(例えば、ソフィーの姿を思い出して落書きをしている→それをソフィーに見られて気まずくなり捨てようとする→ソフィーが「きちんと作品にして」と言う。とか? いま思いついたやつなのでよくよく考えるとそれをソフィーに言わせるのも酷だったりするのかもと思わないでもないですが)

 

あとなんか言うことあった気もするけど忘れちゃったな。

殊能将之が「フランス人はミステリと言うものを何か勘違いしている」と、なんかの本を読んで評していた。先日『その女アレックス』を読んで、あーこういうことかなというのを感じた。(国籍とかでくくるのは間違いだとは思うけど、国や地方によって環境や慣習に偏りが出ることはあることだと思うし仕方がないことだと思う、というのを前提において)この映画もそういう部分が無きにしも非ずなのかな、と思った気がするが、それを具体的にどこで感じたかは忘れてしまった。

 

(追記)

思い出した、服が炎上するシーンだ。そこだけオリジナルの音楽が流れるんだけど、そこがものすごい違和感だった。一番盛り上がるのは燃え上がった瞬間(マリアンヌがエロイーズの姿に見惚れるシーン)じゃないの? 

燃えまっせ燃えまっせ~~~~! はい、どうぞ! みたいな感じだったけど、まあ監督がリキいれて撮ったんだから見てってください! って気持ちはわからないでもないけど、あまりにも唐突過ぎて、やっぱり興ざめしてしまった。エロイーズが燃えすぎて神に昇格するんかとおもった。

まあ、この監督と自分の、好きな映画が違うんだなあという一言に尽き、それなりに面白かったにも関わらず八分目だったのはそういうことかもしれない。