結果無職

がんば

わたしの瞳にわたしはうつる

 就職先が決まった。というよりも、世話してくれるところが決まった、という表現の方が近い。わたしがはたらく予定の会社で、わたしは被雇用者ではなく、個人所業主として業務委託をうける、という形になるのだ。

 つまり、労働基準法というものが機能しない会社で世話になる。しかも4月からではない。9月からだ。研修期間がないので、在宅で研修を受けることになる。メールなどで簡単な仕事をまわすそうだ。

 その話が決まって、両親に話すと、不安そうな顔を向けられた。そりゃそうだ、普通に考えてそんな話はない。体よく断ろうとしているか、とんだブラック会社かのどちらかだ。しかしわたしにはもうすがるものはなく、というより就職なんというものはひとつもしたくなく、状況としてこれをするしかない、というところに追い込まれてしまっているのである。ここに追い込んだのは、わたしの両親も一役買っている。

 決まったのは16日なので、もう一週間と少し経ったことになる。あれからわたしのこころは乱れまくっている。落ち着かず、気持ちよくない。久しぶりに付き合う恋人が出来たというのに、それもすこし楽しくない。こういう時に自暴自棄になれれば楽しいだろう、と思うのだが、どこか自暴自棄になりきれない。

 むちゃくちゃになりたかった。オレはクズなのだと、親に認めさせたかった。わたしの両親は、心のどこかで「自分の息子はやればできるやつで、期待に応えてくれるはず」という甘い理想をおれに押し付け続けてきた。それに応えるのが出来た息子の役目だとするのなら、わたしはひとつも出来ない、クズな息子なのだ。

 今日は、ついに何かのタガが外れた気持ちになった。酒を飲みたかった。いや、昨日から酒を飲みたかった。昨日見た夢は素晴らしかった。あり得ないほど美味しいビールを飲む夢だった。わたしは起きるとビールが飲みたかった。

 そして昨日の夜、ビールを飲んだ。夢で飲んだような、素晴らしくおいしいビールに近かった。それから寝た。滾々と寝た。

 起きると昼であった。それから外へ出向いて酒を買った。再び酒を飲んだ。ビールを飲み、ハイボールを飲んだ。不思議と、昨日のような美味さはなかった。昨日はサッポロを飲んだが、今日はサッポロの冬物語を飲んだからだろうか。ちょっとラガー風の味わいだから違うように思うのだろうか。判らない。わたしはいま酒に溺れたくても、美味いと思えないのだった。いや、美味いのだ。どこか心の奥で遠慮をしているらしかった。いや、判らない。わたしはいま、酒を飲んで楽しいのかどうかが判らない。いまわたしは楽しんでいるのか。

 友人に連絡を取った。「酒飲みたい」と送った。友人からは「うん」という一言とおじさんがジョッキをもったイラストのスタンプが送られてきた。なんだこのスタンプ。

 今日は、友人の、大学最後の舞台の始まりである。それを観に行く予定だ。酒を飲んでいるが、まあいいだろう。

 鏡を見た。自分の瞳がいつもよりおかしい。鏡に近づいてみると、瞳孔がひらいていた。

 じっと、自分の瞳を見ていると、瞳孔の様子がおかしい。中に何かある。いや、違う。わたしの姿が写っているのだ。鏡に映ったわたしが写っている。

 やらねばならない。やるしかない。ここまできたのなら。わけもなくそう思った。わたしはそうするしかない、余計なことを考えるのは、無駄なのだろう。

 冷蔵庫を開くとビールの缶がすべてなくなっていた。次は何か飲もうかしら。いや、今日はやめておこうか。迷ってから茶をいれた。とりあえずいまは、ぼーっとしよう。4時過ぎから出かけて、友人の最後の舞台を見届けるのだ。