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がんば

『英国王のスピーチ』感想

「そういえば昔『英国王のスッピチー』みたいなタイトルの映画観ようか迷ったんだよね~」とか言いながらレンタルして来たら泣いたってワケ。

 

  古臭い映画なんてみてんじゃねーよ! 時代は2015年だし、最近の映画のが面白いにきまってんじゃん! 映像綺麗だし!

 まあ名作だった。泣いたわ。まず俳優最高。物語の中心人物が三人いて、主人公バーティとその妻と言語聴覚士のローグ。バーティは吃音で、それを直そうとするローグとの友情の話。そして妻はバーティを支え続ける。こういう、困難を克服しようとする話なんて泣くに決まってる。それも、吃音の原因が幼少期のトラウマと、王族という立場の孤独と不安。これはつまり貴族版『サムサッカー』ですよ。

 さてストーリー正直読める。そりゃ、こういう物語だからありがちだ、一言で言ってしまえば。けどやっぱりストーリーって、あんまり関係なかったりする。演出が上手くて、判っちゃう物語世界にそれでも入り込んでいく。そして泣く。俺は泣いたぞ。だって演技うめーもん。バーティが妻に「僕は王じゃない」と泣きながら言うシーンなんて思い出すだけでホロリとくる。言ってから泣くのでも、泣いてから言うのでもなくて、ポロポロ涙を流しながら「僕は王じゃない、資格がない、スピーチは失敗だ」と泣くのだ。いいおじさんが、それも王族が、さめざめと悲しみに暮れて泣く。その悔しさや恥ずかしさ、それにやっぱり自分は吃音でまともに喋れないのだという自分の傷を再確認したかのような悲しさで泣く。その演技の上手さには、目を奪われた。ここで容赦なく物語世界に引き込まれる。

 あとは切り返しショット(人物を交互に映して会話を表現する)の構図がちょい不思議でしたね。余白が多かった。でもこれはとあるシーンとメタファを表現する際に上手くマッチしてた気がして良かった。とりあえず一例。

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 これ、人物が基本半分にしかいなくて、もう半分は背景が映る。大抵の切り返しショットはこの構図。ちなみにこのシーンは、バーティが過去にあった出来事を語るシーン。たとえば兄や友達から吃音をからかわれた話や、父親に「はっきり喋れ」と怒鳴られた話、乳母から虐待を受けていた話など。このシーンは恐らく、いちばん吃音が目立つシーンだ。字幕だから判りやすいけど、英語圏のひとはマジで聴きづらいと思う。吃音も名演技だった。そしてその吃音の多さ、余白の表す「孤独感」「不安感」「恐怖感」で、話されているエピソードのせいで吃音になったのだということが判ってくる。

 そしてもう一例。メタファの挿入の仕方。ローグはバーティの吃音を直すためにいる。それだからか「出口」のようなイメージが多様されていた。

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 背景に扉。彼はローグ。バーティにおける苦悩からの「出口」である。

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 今度は階段。これもまたしかり。

 あとはローグとバーティが喧嘩をした時、バーティは王族なのでローグが訪ねても追い返されたりされてしまうのだが、ローグがバーティの屋敷を出る際、外が大雨だったりと、雰囲気や気持ちを判りやすい。

 表現の話でいうと、最後のスピーチのシーンの直前も良かった。スピーチの原稿用紙に、読みやすいようにたくさんの赤い印が記されている。

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 この無数の赤い傷は、バーティの心の中に横たわる傷の数々なのだ。それを思うとこのカットは胸に迫る。音はなくとも迫力のあるカットだ。今までバーティが受けてきた苦労や傷は吃音として出ているが、このカットによりその傷の「深さ」を改めて思い知らされる。

 台詞も良かった。バーティは父親や兄をずっと「王にふさわしい」と評し続ける。兄は女に入れあげて国民からは不評なのに。けれどもそんなことを言い続けるのは、兄も父も吃音ではないからだった。バーティはいつだって吃音が負い目だと思っていたし、ほかならぬ父と兄から吃音であることを指摘されていた。そのことで吃音がない=優れているという価値観を持ってしまっている。そんなバーティを表現した、相応しい台詞だった。

 ラストシーンでは、この映画で初めてバーティに拍手が投げかけられる。そのラストシーンは、今まで積み上げていたバーティの努力、そして悲しみが報われたように思ういいラストだった。

 

 それでは最後に陛下の活きのいい罵倒をご覧ください。

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