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結果無職

がんば

『17歳のカルテ』感想

 別に語ることはない映画だけど、前に見た『クワイエットルームへようこそ』と合わせてみると類似点が多く、『カッコウの巣の上で』が元ネタになっている? ことが何となく判りました。この映画の原作はノンフィクションらしいけど。

 

  まあ別に面白くもないけど、最後の最後で表現が上手く、そこは素直に感心した。何様だよって感じなんだけど、批評って上から目線じゃないと出来ないなってことに何となく気付きはじめたので、遠慮なく上からいく。批評家になりたいわけじゃない。

 最後の最後、主人公スザンナは、襲い来る精神病患者たちからゾンビ映画よろしく地下室を逃げていく。地上に戻るために迷路のような薄暗い空間をダッシュするんだけども、まあちょっと光源無理あったかな? と思う。精神病患者たちが集会してるんだけど、わりと誰でもウェルカムな感じで入り口開けっ放しだし、そもそも隠れる気があるなら廊下に光をつけねーだろうと。初め地下室に入ったシーンでは懐中電灯使ってたのに、このシーンでは使ってない。一貫しようね。

 けれども、精神病患者のボス、リサが「真実」をスザンナに突き付けながら追い込んでいく。スザンナは逃げるために、地下室の大きな扉を閉めようとする。このシーンで、スザンナは精神病患者と地下に閉じ込めてしまおうという意思が、状況・構図としてあらわされる。外へとつながる階段と、精神病患者が集会をしていた地下室と、分断してしまおうとするのだ。しかしスザンナはそこで扉に手を挟んでしまう。血が出る。傷が残る。これはつまり精神病になったという事実がスザンナの手を噛んだと考えてもいい。血のにじむ傷として、スザンナの手に残るのだ。これは上手いと思うのだけど、精神病とはなにか、というところにまで踏み込む表現だと思う。 

 精神病は『クワイエットルームへようこそ』や、もっと言えば私たちの日常の経験から判る通り、生活のすぐ傍にあり、いつだって踏み入れる可能性のあるものだと。そんな精神病を、「扉で手を挟む」という表現で表してしまっていいのかな、とも思う。ちょっと上手く言葉ではまとめることができないけど。

 リサは精神病患者を追い詰め自殺させてしまった。それはイコール「扉で手を挟む」にもつながると思うのだけど、まあなんというか、釣り合わないというか。単純にこれは、このあとリサとスザンナの直接対決に持っていきたいがための状況づくりなのかもしれない。深い意味はないのかもしれない。

 まあこの後リサはスザンナに「うるさいかまってちゃん死んで」と言われ大号泣。そして五点拘束へ……。

 五点拘束されたあと、退院するスザンナにリサはマニキュアを塗ってもらう。このシーンは少し熱くなる。リサが他の患者にマニキュアを塗るシーンがある。これはリサが他の患者に対し、支配的である(=爪にマニキュアを塗るというメタファ)という演出だったと思うのだが、まともになったスザンナにリサはマニキュアを塗ってもらうのだ。ここでリサがまともになっていくのかもしれない、という表現がなされる。

 他のシーンも面白い。まず看護婦。『クワイエットルームへようこそ』でもいたが、冷徹だけど憎めない奴、みたいなポジションひとりはいるね。元ネタ誰だよ。

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 スザンナが回復へ向かうとき、その看護婦はスザンナに優しく寄り添ってくれる。「精神病である自分にあまえるなよ」みたいなアドバイスをのこす。

 

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 そしてここでインターバルとばかりに、木々のカットが入る。この映画は基本室内なので人間ばっかり映っているのだけど、ここからスザンナがまともになっていくので、空気を換えるためか、自然のカットをバックにスザンナの達観したコメントが入る。しかしこれはわりと当を得ている。「何も感じたくない時死は夢のように思えるけど、モノホンの死体見ちゃったら引くわ」とのこと。

 さて『クワイエットルームへようこそ』との共通点。さっき出したマニキュアのたとえが、『クワイエットルームへようこそ』ではパロディされていく。あの映画では主人公が真っ黒な服を着て真っ黒なマニキュアを塗っている。「落ち込んでますよ」アッピルですね。

 さらに『クワイエットルームへようこそ』で使われていた『オズの魔法使い』も。『クワイエットルームへようこそ』では銀色の口のかかとを三回……というあの魔法がかなり効果的に使われていたが、『17歳のカルテ』ではわりとあっさり。そして『オズの魔法使い』の映画をそのまんま使っていて結構雑。しかし言いたいことはどちらも同じ。「お家が一番」と、精神病に甘えてはいけないよというメッセージに通じる。

 精神病患者はお家を失くした子供たち。

 やりきれない、意味のない、ひろい世界に流浪するひとたち。

 そんな例えを使うのに、『オズの魔法使い』はぴったりだった。けれど使い方は『クワイエットルームへようこそ』の方が上だったかもね。