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がんば

『クワイエットルームへようこそ』感想

 三日坊主だろうし、自分が今まで見てきた映画の中で、これと言って語るべきことはない映画なのだけど、ふと思い立ったので、書けることだけ書いておこうと思う。そういう気分なのだ。

 

 あらすじはググってもらうか映画をみてもらうかして、ネタバレ上等で書く。

  さて『クワイエットルームへようこそ』だが、精神病棟に入った主人公を含め、他の誰かにも、きちんとした「精神病棟へ入る理由」というのがあるようで、そこがきっちりしていたからこそ、この映画は冷めることなく見れたのだと思う。過食症だという元AV女優が新人をいじめているのも、AV女優という新人が現れては消えていく環境にいたからこそ備わった性癖なのだと判るし、そもそも主人公が何故病棟に入るに至ったのかも詳しく「理由づけ」がされ納得できる。構成も丁度良かった。中盤に差し掛かるあたりでその「理由づけ」がなされたのは、後々の鉄ちゃんなる恋人とのエピソードに効いてくる。そして「理由づけ」が早く知ることが出来たこちらは、引っかかることなくその後の精神病棟の日常を見ることができる。

 栗田という一見まともそうな、ODした女が色紙を捨てる理由もそうだ。「シャバに出るってそういうことよ」と言い切った理由も「観ているあなたが考えるべきこと」という構成になっていて、それもふさわしい。つまりは「精神病である自分を切り離す」という意味で、精神病棟で出会ったひとびととの繋がりを断つわけだが、栗田は主人公に連絡先を渡してしまう。結果そのメモ帳は捨てられてしまうのだが、はたしてそれは正解だったのかと考えると、大正解なのだろう。きっと栗田もそのつもりでメモを渡したのだと思う。メモを捨てることができる……精神病棟との繋がりを断つことができるようになってからが、社会へ戻る第一歩なのだろうから。その証拠に……といっていいのか……渡されたメモに書いてあるメールアドレスは「life_is_happy@loop. ...」となっている。メールアドレスは皮肉にみえるが、使えないメアドですよ、と示すものにも見える。

 そしてそれに関した百合イベントがひとつ。蒼井優演じるミキが、主人公の寄せ書きの色紙に「この色紙を一時間以内に捨てなければ爆発します」という旨のメッセージを書きこんで手渡す。つまり「捨てろ」「私のことは忘れろ」ということだ。主人公がこの精神病棟で出会った相手で、一番大事な相手はミキだろう。唯一傷つけた相手もミキだ。何故精神病棟に入ったかの理由を知らなくても一番寄り添ってくれたのがミキだったし、唯一患者の中で……あるいは世界の中で……ミキの拒食症になった理由を知っているのが主人公なのだ。その相手に「自分を忘れろ」と伝える。

 ひとが暮らすには支えが必要で、その支えとこころに圧し掛かる重いもののバランスが取れなくなってしまったひとが、精神病棟に入るのだ。

 ミキには「自分は正しいことしている」という支えがあった。そしてその支えは同時に身体や心に圧し掛かる重いものでもあった。「自分は正しいことをしている」という正義感は自分ひとりの中だけで掲げてきたものだったが、主人公に理由を告白したあの瞬間、ミキの支えは自分ひとりではなく、主人公の存在も支えに加わったのだと思う。

 しかしミキは自らその支えを断ち切った。主人公もそれに応えるように、メアドを訊ねることもしなかったし、色紙もすぐに捨てた。

 それはお互いがお互いのことを思ってのことだと思う。ミキは主人公に、まともなまま生きていってほしかったし、主人公もそれがまともになった人間のする作法だと知っていたのでまともな人間のやり方で気持ちに応えたのだ。けして重荷を切り離したのではない。主人公はミキのおかげで、早く社会復帰出来たのだし、そのことに主人公は気付いているはずだ。

 さてここ最近の日本の映画や演劇の物語の筋の立て方に多い「理由づけ」にわざと奇怪なアイテムを使うアレなのだけど、松尾スズキだから多めに見てしまうところがあるので何とも言えないが、死んだ父のための「仏壇」を送ることや、元旦那と別れる理由が飲みの場での「一発芸」だったり、いまいち面白くない。いや、まあ、冷静に考えるとバカバカしくて面白いのかもしれないけど、そんなことよりも松尾スズキは言葉で面白くできるひとなのだから、そんな尖ったことしなくても……と思ってしまう。例えば「仏壇」を「位牌」に変えればよかったのにとか思わないでもない。まあ「仏壇」を銀色に塗るというイベントは鉄ちゃんマリファナをやっていたからシチュエーション的には不自然じゃないんだけど……。でもまあ「仏壇を他宗教のやつに送らせねえだろ」みたいな常識的なツッコミをしてしまう。まあ、いいんだけど、そこが味なんだろうし。しかしまあそんなツッコミをしてしまう映画でした。つまらなくなかったし面白かったけど、うんまあ二度目は自主的にみませ~ん。おちんちん。