結果無職

がんば

和歌山に行けない

 今日は6時過ぎに起き、早く支度を済ませた。何かの時間に追われているわけではない。一昨日から「和歌山県に小旅行へ行く」のだと決めていたから、それを実行に移そうと思って、そうしたのだ。

 和歌山には友ヶ島という、比較的安くフェリーで行ける島がある。景観がいいのだと話を聞いたので、ようやく訪れた春休みに、何もしないではつまらないと思い、出かけることにした。幸いにも今日は給料日。多少の余裕がある。

 8時過ぎの電車に乗れば、乗り継ぎ乗り継ぎ、10時には和歌山に着く。しばらく読んでいない本でも持って行こう、とショルダーバックに本を詰め、温かい格好をして外へ出た。日は強く温かいが、気温自体が低く風もある。少し震えながら駅に向かい、ボーっとしながら天王寺へと行く。天王寺から阪和線に乗り、1時間と少し揺られる予定だった。頭の中で自分のすべきことを順序立てながらネットをしていると、フェリーの運航情報が目に入った。

 火曜日と水曜日は運休だと、書いてあった。フェリーのHPをみた月曜日にそんなことが書いてあっただろうか、酔っていたから見逃したのだろうか。悶々、呆然としながら天王寺に着く。

 天王寺で阪和線の乗り場に着くと、阪和線が遅延しているとあった。どれだけ遅れているのかは判らない。ボーっと待っていたら、少しだけ寒さが辛くなってきた。まだかまだかとイラついていると、一本電車が到着。何も考えず乗ると、僕は**に連れていかれていた。

 は、と顔をあげると無数の鹿、鹿。ものを言わず、ただ草か何かを咀嚼するその表情は、不気味にも何もうつさない。真っ黒い眼が皆、こちらに向けられている。硬質な爪が土と砂利を踏む音。集団が息する音。それらが聞こえるということは、この場が静かなのだということを示していた。

 ゆっくりと立ち上がったが、焦っていた。和歌山に行くはずだと思っていたのに、顔をあげると鹿に囲まれている。まるでこれでは**じゃないか。バカバカしい、何の冗談だ。憤りを隠さず、けれども込み上げる少しのおかしさに笑いつつ、鹿をかき分け前に進んだ。

 

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 僕の隣を鹿が通り過ぎるたびに、それは何かの象徴めいた存在に思えてくる。

 少し進むと急な階段が見えた。

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二月堂

 

 どこからかお経が聞こえてくる。不気味で仕方がない。早足で通り過ぎた。いつの間にか風は止まっていて、先ほどのような身を切る寒さはない。むしろ陽の光で少しだけ体が温まったくらいだ。どこからか花の香りがした。見渡したが、花は見当たらない。どこからか微風が、花の香りを運んできてくれたのだろうか。桜か、梅か、それとも木蓮か。これで、ここが和歌山だったら完璧だったのに。そう思いながら階段を通り過ぎた。

 しばらく歩くと、道の両側が塀で囲まれた通りに出た。その塀には瓦が埋め込まれ、横線をずーっと張り巡らせている文様のようだ。どこかモダンな雰囲気を感じる。**にしては洒落てるじゃないか。じっとその文様を眺めつつ歩いていると、急に開けたところに出た。

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小径の覗く奈良

 

 灯篭が並び、素知らぬ顔を、今僕が来た道に向けている。身体に生える苔が、陽の光に当たっても、じめっとした印象を与えた。ふとその灯篭の傍をみると、階段か、小路へと続く入り口がある。そこへ行こうかと思ったが、バカめ、僕が来たかったのは**じゃない、和歌山なんだ。そう思って、目をそらし、前へと進んだ。

 そうだ、海へ出れば、和歌山にだって行ける。だってこの世に海は一つしかない。全て繋がっているんだ。そして僕が行きたかったのは和歌山のフェリーから行ける島。フェリーが運航していないなら、僕が勝手に行けばいい。そんなことを思いつき、さっそく川を探した。川を下れば海に着く。

 

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垂れ流れる奈良

 

 しばらく探すと、川の始まりである滝を見つけた。どうも湧き水を集めて出来ているらしい。周りには清閑とした空気が漂っている。

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 下ってゆくと、川を見つけた。あつらえたように船まである。船には、たくさんのひとが乗っていた。まるで今朝の電車のようだ。すいません、乗せてもらえませんか。そう呼びかけると、

「@@@@@@@、@@@@。@@@@@@?」

 と逆に問い直された。問い直された、といっても何を問い直されたのかは判らない。どうも外国のひとらしい。

「もしかして、ひとがいっぱい? もう乗れませんか?」

「@@@@@@! @@、@@@@@@@@@@@」

 どうもそうらしい。そうなっては仕方がない、諦めよう。僕はその場に座り込んで、船が海へと下ってゆくのを見た。木陰に隠れて船が見えなくなると、僕はまた歩き出した。

 **か、どうもうまく物事が運ばない。僕とは相性が悪いらしい。また吹きはじめた風に身体を小さくして、なるたけ日向を選んで歩いた。帰り道は自然と判った。駅に着くと、すぐ電車には乗らず、町全体を見渡せる場所に向かった。

 

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晴れてるけど寒い奈良

 

 もう三月だというのに、花はひとつも見当たらない。それではさっき感じた花の香りはなんだったのだろう? 問いかけたって誰も答えてくれはしない。ここは**で、僕はここでは外国人なのだ。