結果無職

がんば

一昨日、昨日、今日、明日

 ひとが群れている光景というものに憧れや嫉妬や憎悪を抱かない。前はそんな思いもあったか判らないが、ここ最近は、周りの友人がそれなりに構ってくれるので、人付き合いの少なさからくるフラストレーションみたいなものは無くなった。

 一昨日、友人と京都へ観劇をしに行った。地点の『地点の近未来語』という一風変わった作品を観に出かけたのだが、友人には大不評で、隣で船を漕いでいるのを見ながら、なんかすまん、と思っていた。個人的には、地点という劇団及び演出の方がやりたいことも何となく感じ取れて、「演劇を観に行く」というよりかは「地点を観に行く」と言った方がいいような気がしてくる感じを受け取れて、良かった。帰りには、来年から始まる稽古について少し話し、教授が僕について「彼は面白いんじゃない、真面目で」と話していたことを聞かされちょっと浮かれるなどした。

 京都は出町柳駅まで出張ったので、それほどひとが群れた様子はなく、京大の横を歩きつづけると、なんだかいい気分がしてくるのは、静かだったというのもあるのかもしれない。吉田屋みたいな名前のラーメン屋に入り、志七そばなるものを食べた。ようは和風ラーメンなのだが、一口目よりも二口目、二口目よりも三口目が美味しいタイプのラーメンで、もう一度食べてもいいかな、と思えた。28日にもまた同じ劇場へ行くので、次はどうしようか今から考えている。出町柳駅の周りには、お酒関係のお店が良く目につく。酒を入れるとその後、劇のことを思い出せなくなったり会場で寝てしまったりするかもしれない。それは困るのだ。

 昨日、自分が何をしていたか、あまり覚えていない。朝起きて、適当にネットサーフィンをしていた気がする。その後食材を買いに行き、ボルシチを作った。そしてついでに買ったベーコンを炒め、ビールを開けた。そして若干朦朧としながらパスタを食べ、16時くらいに(はっきり覚えていない)布団に入り、19時に起きた。ダルい身体を起こして、ネットをしながらボルシチを食う。そしてビール。23時ごろに風呂に入って、それから2時前に寝た。わりとよく思い出せた方だが、細かなことは思い出せない。全て他人事のように思えてならない。実際、自分はそれらをしたのかどうか、すこし怪しくなってきたところだ。しかし確実に昨日はずっと1人で、他人と関わったことといえば、レジか、諸連絡をLINEでしたくらいだ。それなりに満足した一日だった気がする。

 それで今日、9時に起きた。シャワーを浴びてお茶を飲んだりなんだりしているうちに、11時。ボルシチを食って、昼過ぎに、ふと、ケーキを食べてみればいいんじゃないか、と思った。ケーキが食べたくなったのだ。しばらくぼんやりしていたが、ケーキを食べたらもっと自分は満足する気がする、と根拠のない、そして淡い希望を持ちながら外へ出た。そしてスーパーに行き、ケーキのコーナーを覗くと、1100円~の値段で売られており、今自分の財布の中には札が無いことに気が付いた。

 ATMでお金を下ろしてまでケーキは食べたくない。しかしここまで来たのだからケーキを食べたい。そうしてスーパーを夢遊病者のように歩きつづけているうちに、ふと、自分がみじめに思えてきた。クリスマスに1人、ケーキが買えず、スーパーをうろうろしている。

 自分はひととワイワイ出来ないことにストレスを感じはしないが、心のどこかで、時勢の盛り上がりには乗っかりたい、という思いがあるらしく、それがここで決壊したんだと思う。猛烈に、自分がケーキも買えない愚鈍な奴、イベントに乗り遅れ今更ケーキを食って心の穴を埋めようとする奴、惨めな自分を見ない振りし続けている奴、に思えて、その場でボルシチを吐き戻しそうになった。しかしボルシチを吐いても何も始まらない。泣きながらパンを買ってスーパーを出た。

 そしてどこへ向かうかといえば、一旦商店街のケーキ屋さんの前を通り、しかし通り過ぎ、少し遠いスーパーに行こうとし、止め、家に戻る進路をたどり、それから家を通り越してセブンイレブンに入る。

 セブンイレブンで、安いケーキを買ってみた。レジを打っていた若い女性に、お前は愚鈍だ、コンビニでケーキを買う惨めな奴だ、ずっと前からこうなることを知っていたのに、わざわざ1人の方が良かろうと思い込んでわざわざ予定を入れなかったのだ、イベントごとに乗っかりたがる人間なのはお前自身が判っていたはずだろう、と言われた気がした。ふらふらとした足取りで家に戻った。

 帰って、震える手でケーキを食べようとした。震えているからか、スポンジがパサついて固く、プラスチックのフォークでは上手く切れないからか、中々一口目を口に運ぶことはできない。ようやくケーキを口に含むと、生クリームの甘さだけで全てを繕ったようなケーキの味が広がった。美味しくなかった。よけい惨めだった。二口、三口と食べ進めるたびに惨めだった。乗っかっているイチゴも食べてみた。酸味も甘みもない、カスみたいなイチゴだった。虚無感と惨めさと、あとは何か判らない感情が胸の中で跳ねまわった。

 あ、と思い立つ。紅茶を淹れようと思ったのだ。立ち上がって、手に持ったプラスチックのフォークの置き所に困ったので、いちごが乗っかっていた場所に突き立ててみた。遠目からみるそのケーキは真っ白で味気ない見た目で、美味しくないことも知っているし、まるで荒野のようだと思った。舌の上には荒野のわざとらしい甘みが残っていた。