読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

結果無職

がんば

時の流れ

 いつの間にか大阪へ越してきて一年が経っていた。随分早いものだなあ、と思ったりもしたが、去年の今頃はバイトの辛さに「もう帰りたい」「時間が早く進んでほしい」「こんなことなら生きていたくなかった」と思っていた。ふとその時の自分に失礼じゃないか、と思ったので、時間が経つのは早いなあ、なんて時間貴族のようなことはあまり言わないでおこう、と思う。

 まあそれはいいとして、つい最近について。

 

 最近は自主公演の舞台美術を作ることに明け暮れている。別に面白いことはない。自分が考案したものでもないからだ。その作業に出向くと、とある人に声をかけられた。K山さんという女子だ。K山さんは何となく近寄りがたい雰囲気を持っていて、それはK山さんが人見知りというのもあるのだが、演劇に対して知識欲や体験欲というものが満ち満ちているというのもあると思う。いわゆる意識が高いという感じだ。

 僕自身が衝動的な創作意欲だけでこの道を選んだので、こういうガチの人に出会うとコンプレックスを刺激され、いいイメージを持てない。相手に悪いところはないというのに。

 そのK山さんとなんてことのない話をした。本当になんてことのない話だ。話してから、どうして俺はK山さんに対していいイメージを持っていなかったんだろう? と不思議に思ったが、以前あった一件を思い返すと、その時の自分に失礼な気もするし、またその時の自分に「気にするな」と言いたくもなる。考えを改め始める瞬間というのは今なんだろう。

 

 演劇に対してガチというと、東京に引っ越した友人を思い出す。O江だ。O江は大学で知り合い、時々話す仲だった。良い奴だった。彼は役者を目指して東京へ行った。それでこの間、電話がかかってきた。

『おう』

「うん。え、どしたん」

『役貰った』

「え?」

『役。今度、舞台でる』

 彼は某事務所の研究生なのだという。つまり、レッスンを受けてるわけだ。その研究生からオーディションで見事勝ち抜き、チャンスを手にした。事務所に入って3か月も入ってないはずだ。

「すごいじゃん!やったじゃん!」

『おー!ありがと』

「てか、どうして俺に?」

『いや、なんか誰かに言お思て、そんで出てきたんが腹びわで』

 電話の向こう側で笑う声がした。その時僕の頭の中には、校舎の裏、レンガの積み重なり砂利の敷き詰められた空間で、O江が煙草を吸い、ひじに腕を置き、照れくさそうに笑っている姿が浮かんだ。その場所は、彼と僕がよく話をしていた場所だった。